料理の腕前を左右するといっても過言ではない、包丁の使い方。せっかく良い包丁を買っても、正しい切り方を知らなければその性能を引き出せませんし、何よりケガのリスクも高まります。
この記事では、包丁の基本的な持ち方から、和包丁ならではの専門的な切り方までを一覧でわかりやすく解説します。これを読めば、食材に合わせた切り分け方がわかり、料理の味わいや見た目も一段と向上するはずです。
まずは基本の持ち方と姿勢を確認しよう
包丁の切り方を覚える前に、まずは正しい立ち位置と包丁の持ち方を身につけることが大切です。ここが間違っていると、思うように切れないだけでなく、手や指を傷つける原因にもなります。
調理台に対して体を45度に
料理をするとき、調理台に正面から向き合っていませんか?実はこれ、包丁をスムーズに動かすにはあまり効率的な姿勢ではありません。
体を調理台に対して約45度に傾けることで、腕全体を使って包丁を動かせるようになります。肩から腕、包丁が一直線になるイメージで立つと、力みが取れて安定した切り口が得られます。
包丁の正しい持ち方「ピンチグリップ」
包丁の持ち方にはいくつか種類がありますが、プロの料理人も使う基本中の基本が「ピンチグリップ」です。
親指と人差し指で刃の根本(ハンドルとの境目あたり)をつまむように持ち、残りの3本の指でハンドルを軽く握ります。指でぎゅっと握りしめるのではなく、あくまで包丁をコントロールするイメージです。
この持ち方の良いところは、包丁の刃先の感覚が指先に伝わりやすく、細かい動きがコントロールしやすい点にあります。慣れるまでは少し違和感があるかもしれませんが、一度身につければ格段に切りやすさが変わります。
食材を支える手は「ガイドハンド」
包丁を持つ手と同じくらい重要なのが、食材を支える反対の手です。
指を内側に折り曲げて、第一関節を包丁の刃のガイドとして使います。この「ガイドハンド」の関節に刃をそっと滑らせるように当てながら切ると、一定の厚さでスライスできるようになります。
指先を伸ばしたまま切ると、指を切る危険性がぐっと高まります。必ず指は内側に巻き込むようにして、関節をガイドにすることを習慣づけましょう。
包丁の切り方の基本は「押し切り」と「引き切り」
包丁の切り方を一覧で見ていく前に、まずはすべての切り方の土台となる2つの動作を理解しておきましょう。それは「押し切り」と「引き切り」です。
押し切り:洋包丁の基本動作
押し切りは、包丁を前方に押し出すようにして切る方法です。洋包丁を使うときに最も基本的な動作で、特に硬い野菜や肉を切るのに向いています。
包丁の刃を食材に当て、刃先の少し手前から斜め前方に押し込むようにして一気に切ります。このとき、包丁を単に上下に動かすのではなく、前に押し出す意識が大切です。
押し切りのメリットは、体全体の力を刃に伝えやすいこと。かぼちゃやにんじんなど、硬い食材でもスパッと切ることができます。
引き切り:和包丁の基本動作
一方、引き切りは包丁を手前に引くようにして切る方法で、和包丁の基本的な動作です。
刃先の根元(ハンドル側)を食材に当て、そこから一気に手前に引いて切ります。このとき、包丁を横に動かすと食材が裂けてしまうので、あくまで直線的に手前に引くのがポイントです。
引き切りが特に適しているのは、刺身などの魚介類。細胞を壊さずに切ることができるため、うまみ成分を含んだ水分を保ちやすく、結果として旨味を感じやすい仕上がりになります。
実際に、ミシュラン三つ星を獲得した料理人の山本征治シェフは、「包丁の技術は料理の味を変える」と語っています。和包丁の引き切り技術は、単なる切り方ではなく、食材の持ち味を最大限に引き出すための重要な手段といえるでしょう。
押し切りと引き切り、どちらを使うべき?
では、実際の料理ではどちらの切り方を使えばいいのでしょうか?
基本としては、洋包丁を使うときは押し切り、和包丁を使うときは引き切りを意識するとよいでしょう。とはいえ、和包丁でも硬い野菜を切るときは押し切りを使うなど、食材によって使い分けるのが実際的です。
大切なのは、「押し切りと引き切りという2つの動作がある」ことを知ったうえで、自分が使いやすい方、食材に合った方を選ぶこと。どちらか一方しかできなくても問題ありませんが、両方を使いこなせれば料理の幅は確実に広がります。
基本の切り方を一覧でチェック
ここからは、包丁の切り方の種類を具体的に見ていきましょう。いわゆる「基本の切り方」から、和包丁ならではの専門的な技術までを一覧で紹介します。
1. スライス切り(薄切り)
スライス切りは、食材を薄く均一な厚さに切る最も基本的な切り方です。
包丁をまっすぐ垂直に下ろすか、少し引くようにして切ります。厚さが均一だと火の通りが揃い、見た目も美しくなるため、どんな料理のベースにもなる重要な技術です。
にんじんや大根、きゅうりなど、さまざまな野菜で使われます。
2. 角切り(賽の目切り)
角切りは、食材をまず棒状に切り、それを横から切って小さな立方体にする方法です。
大きさによって「賽の目切り」(約1cm角)「みじん切り」(約5mm角)などと呼び分けられることもあります。表面積が増えることで味が染み込みやすくなり、スープやソース、カレーなどの具材として重宝します。
3. せん切り(千切り)
せん切りは、食材を長さ4〜5cm、太さ2〜3mm程度の細い棒状に切る技術です。
キャベツの千切りや、にんじんの千切りなどが代表的ですね。食感が良く、サラダや炒め物の彩りを美しくしてくれます。均一な太さにそろえるのがコツで、ガイドハンドの関節をうまく使って一定の幅で切っていきましょう。
4. 微塵切り(みじん切り)
微塵切りは、食材を細かく刻む技術です。主にニンニクや生姜、玉ねぎ、ハーブなどの香味野菜を刻むときに使います。
包丁の刃先を上下に動かしながら、食材を少しずつ回して細かくしていくのが基本のやり方。風味や香りを料理に均一に広げたいときに最適です。
5. 斜め切り
斜め切りは、食材を斜め45度の角度で切る方法です。
断面積が大きくなるため、味が絡みやすくなるのが特徴です。また、同じ食材でもまっすぐ切るより見た目に変化が出るため、煮物や炒め物の彩りをよくしたいときにおすすめです。
6. いちょう切り
いちょう切りは、主ににんじんや大根などの根菜類を、半月状に切る方法です。
まず食材を輪切りにし、その輪切りを半分に切ることでいちょう形になります。厚みを均一にすることで火の通りが揃い、煮物にぴったりの切り方です。
7. 乱切り
乱切りは、食材を大きめの不規則な形に切る方法です。かぼちゃやさつまいもなど、形が変わった野菜を切るときに使われます。
切るたびに食材を回しながら、面を変えて切っていくのがポイント。断面積が大きくなるので味が染み込みやすく、煮物やカレーに向いています。
和包丁ならではの専門的な切り方
ここからは、和食のプロが使うような、より専門的な包丁の切り方を一覧で紹介します。日常的にはあまり使わないかもしれませんが、知っておくことで日本料理の奥深さを理解できるでしょう。
8. 桂剥き(かつらむき)
桂剥きは、大根を帯状に薄く剥くように切る技術です。カンピョウの材料を作るときなどに使われる伝統的な切り方です。
大根を回転させながら、包丁で薄く帯状に剥いていくように切ります。均一な薄さに仕上げるには高度な技術が必要で、まさに日本料理の包丁捌きの基礎ともいえる技です。
9. 針切り(はりぎり)
針切りは、大根を細い針のように細長く切る技術です。
桂剥きで作った薄い大根の帯を、さらに細い針状に切っていきます。酢の物や和え物の彩りとして使われ、繊細な見た目とシャキッとした食感が特徴です。
10. 笹掻き(ささがき)
笹掻きは、ごぼうを鉛筆を削るように斜めに薄く切る方法です。
ごぼうを回しながら、包丁を斜めに当てて削るように切っていきます。ごぼうの香りと食感を引き出し、味が染み込みやすくなるのがメリット。きんぴらごぼうなどでおなじみの切り方ですね。
11. 蛇腹切り(じゃばらぎり)
蛇腹切りは、きゅうりなどの食材に細かい切り込みを交互に入れる技術です。
包丁で斜めに切り込みを入れては食材を少しずらし、反対側からも同様に切り込みを入れます。こうすることで蛇腹のように見た目が美しく仕上がり、味も染み込みやすくなります。酢の物や漬物でよく見かける切り方です。
包丁を使うときの大切な注意点
最後に、包丁を使ううえで絶対に覚えておきたい注意点をまとめます。
切れ味が悪い包丁は危険
「包丁が切れないからといって、無理に力を入れて切ろうとする」これは非常に危険な行為です。滑って手を切るリスクが格段に高まります。
逆に、よく研がれた鋭い包丁は、軽い力でスッと切れるためコントロールしやすく、結果として安全性も高まります。包丁は定期的に研ぐことが、安全で快適な調理の第一歩です。
刃で食材をすくわない
まな板の上の食材を、包丁の刃で横にすくってまとめる人がいますが、これは包丁の刃を傷める原因になります。刃先がまな板にこすれて摩耗し、せっかく研いだ切れ味が落ちてしまいます。
食材をまとめるときは、包丁の背中(刃と反対側)を使うか、別のヘラなどを用意しましょう。
適切なまな板を選ぶ
包丁の刃を長持ちさせるには、まな板の材質も重要です。ヒノキやゴム製のまな板は刃に優しく、おすすめです。一方、ガラス製や石製のまな板は硬すぎて刃を傷めるため、避けたほうが無難です。
包丁を選ぶときのヒント
この記事では包丁の切り方を中心に紹介しましたが、切り方を身につける前に「自分に合った包丁を選ぶ」ことも同じくらい重要です。
和食や魚を扱う機会が多いなら和包丁(出刃包丁や柳刃包丁など)が、肉や硬い野菜をよく切るなら洋包丁(牛刀や三徳包丁など)が向いています。まずは自分の料理スタイルを振り返ってみると、どの包丁が合うか見えてくるでしょう。
包丁の切り方には、今回紹介した以外にもさまざまな種類があります。しかし、すべてを一度に覚えようとしなくて大丈夫。まずは基本の姿勢と持ち方、そして「押し切り」と「引き切り」の違いを意識しながら、日常の料理で少しずつ試してみてください。
包丁の技術は、料理の味わいを変えるだけでなく、作る楽しさも何倍にもしてくれます。正しい知識と練習を積み重ねて、包丁を使いこなす喜びをぜひ感じてみてください。

コメント